[INDEX]
大正2年条約第2号
千九百年十二月十四日菲律悉及千九百十一年六月二日華盛頓ニ於テ改正セラレタル工業所有権保護ニ関スル千八百八十三年三月二十日ノ巴里同盟条約(大正2年4月11日)
朕枢密顧問ノ諮詢ヲ経テ明治四十四年六月二日亜米利加合衆国華盛頓ニ於テ帝国全権委員カ関係各国全権委員ト共ニ署名シタル千九百年十二月十四日菲律悉及千九百十一年六月二日華盛頓ニ於テ改正セラレタル工業所有権保護ニ関スル千八百八十三年三月二十日ノ巴里同盟条約及附属議定書ヲ批准シ茲ニ之ヲ公布セシム
千九百年十二月十四日菲律悉及千九百十一年六月二日華盛頓ニ於テ改正セラレタル工業所有権保護ニ関スル千八百八十三年三月二十日ノ巴里同盟条約
独逸帝国ノ名義ヲ以テスル独逸皇帝普魯西国皇帝陛下、墺地利国皇帝「ボヘミヤ」国皇帝洪牙利国皇帝陛下、白耳義国皇帝陛下、伯剌西爾合衆国大統領、玖馬共和国大統領、丁抹国皇帝陛下、「ドミニカ」共和国大統領、西班牙国皇帝陛下、亜米利加合衆国大統領、仏蘭西共和国大統領、大不列顛愛蘭聯合王国大不列顛海外領土皇帝印度皇帝陛下、伊太利国皇帝陛下、日本国皇帝陛下、墨西哥合衆国大統領、諾威国皇帝陛下、和蘭国皇帝陛下、葡萄牙共和国仮政府大統領、塞爾比亜国皇帝陛下、瑞典国皇帝陛下、瑞西聯邦政府、突尼斯国政府ハ万国工業所有権保護同盟ヲ創設シタル千八百八十三年三月二十日ノ万国同盟条約ニシテ千九百年十二月十四日菲律悉ニ於テ改正セラレタルモノニ若干ノ変更及追加ヲ為スノ必要アリト認メ各左ノ全権委員ヲ任命セリ
〔全権委員氏名省略〕
因テ各全権委員ハ互ニ其ノ委任状ヲ示シ其ノ良好妥当ナルヲ認メタル後左ノ諸条ヲ協定セリ
第一条
締約国ハ工業所有権保護ノ為茲ニ同盟ヲ組織ス
第二条
各締約国ノ臣民又ハ人民ハ他ノ総テノ同盟国内ニ於テ発明特許、実用新案、工業的意匠又ハ雛形、製造標又ハ商標、商号、原産地ノ表示及不正競争ノ取締ニ関シ各其ノ国法カ内国人ニ対シ現ニ許与シ又ハ将来許与スヘキ利益ヲ享受スヘシ故ニ該臣民又ハ人民ハ内国人ノ遵由スヘキ手続及条件ヲ遵守スルニ於テハ内国人ト同一ノ保護ヲ受ケ其ノ権利ノ侵害ニ対シテモ亦総テ内国人ト同一ノ訴権ヲ有スヘシ但シ保護ヲ受ケムトスル国内ニ住所又ハ営業所ヲ有スヘキ何等ノ義務ヲモ同盟国人ニ課スルコトヲ得ス
第三条
同盟ニ加入セサル国ノ臣民又ハ人民ニシテ同盟国中ノ一国ノ版図内ニ住所ヲ有シ又ハ現実且真誠ナル工業的若ハ商業的営業所ヲ有スル者ハ締約国ノ臣民又ハ人民ニ準スヘキモノトス
第四条
甲 締約国中ノ一国ニ於テ合式ニ発明ノ特許出願、実用新案、工業的意匠若ハ雛形又ハ製造標若ハ商標ノ登録出願ヲ為シタル者又ハ其ノ承継人ハ他ノ締約国ニ於テ出願ヲ為スニ当リ第三者ノ権利ヲ留保シテ下ニ定ムル期間優先権ヲ享有スヘシ
乙 故ニ右期間満了前他ノ締約国ニ於テ為シタル後ノ出願ハ其ノ中間ニ於テ遂行セラレタル事実殊ニ他ノ出願アリタルコト、其ノ発明ヲ公ニシ若ハ実施シタルコト、意匠若ハ雛形ノ模本ヲ発売シタルコト又ハ標章ヲ使用シタルコトニ因リ無効ト為ルコトナシ
丙 前記優先権ノ期間ハ発明特許及実用新案ニ在リテハ十二月、工業的意匠又ハ雛形及製造標又ハ商標ニ在リテハ四月トス
丁 先ノ出願ニ基ク優先権ヲ主張セムトスル者ハ該出願ノ日附及国名ヲ示シタル宣言ヲ為スノ義務ヲ有ス各国ハ何時迄ニ右ノ宣言ヲ為スヘキカヲ定ムヘシ其ノ宣言事項ハ当該官庁ヨリ発行スル刊行物殊ニ特許及其ノ明細書ニ関スル刊行物ニ掲載スヘシ各締約国ハ優先権ノ宣言ヲ為ス者ヲシテ先ノ願書（明細書、図面其ノ他）ノ謄本ニシテ之ヲ受理シタル官庁ノ認証アルモノヲ提出セシムルコトヲ得該謄本ニハ一切公証ヲ要セス但シ官庁ノ出願日附証明書及訳文ヲ添附セシムルコトヲ得出願ノ際ニ於ケル優先権ノ宣言ニ対シテハ右ノ外何等ノ手続ヲモ要求スルコトヲ得ス本条ニ定ムル手続ノ懈怠ノ効果ハ各締約国ノ定ムル所ニ依ル但シ優先権ノ喪失ヲ以テ限度トス
戊 他ノ疏明書ハ其ノ後之ヲ提出セシムルコトヲ妨ケス
第四条ノ二
1 第二条及第三条ノ規定ニ依リ本条約ノ利益ヲ享受スル者カ各締約国ニ出願シテ得タル特許ト同一ノ発明ニ付他ノ締約国又ハ締約国外ノ国ニ於テ得タル特許トハ互ニ独立ノモノタルヘシ
2 前項ノ規定ハ絶対的ノ意味殊ニ無効及失権ノ原因ニ関スルト普通ノ存続期間ニ関スルトヲ問ハス優先期間中ニ出願シタル特許ハ独立ナリトノ意味ニ解釈スヘシ
3 第一項ノ規定ハ其ノ実施ノ際存在スル一切ノ特許ニ之ヲ適用ス
4 新ニ加入スル国アル場合ニ於テ其ノ加入ノ際加入国又ハ締約国ニ存在スル特許ニ付亦同シ
第五条
1 特許証主カ他ノ同盟国ニ於テ製造シタル物品ヲ特許ヲ得タル国ニ輸入スルモ之カ為ニ特許ノ失権ヲ来スコトナシ
2 然レトモ特許証主ハ其ノ特許品ヲ輸入スル国ノ法律ニ従ヒ其ノ特許ヲ実施スルノ義務アルモノトス但シ特許ハ同盟国中ノ一国ニ於テハ其ノ国ニ出願ヲ為シタル日ヨリ起算シテ三年ヲ経過シ且特許証主カ其ノ不作為ノ事由ヲ疏明セサル場合ノ外ハ不実施ヲ理由トシテ失権ヲ受クルコトナシ
第六条
1 総テ本国ニ於テ合式ニ登録ヲ受ケタル製造標又ハ商標ハ他ノ同盟国ニ於テモ其ノ儘出願ヲ許容シ且保護ヲ与フヘシ
2 然レトモ左ニ掲クル標章ハ之ヲ拒絶シ又ハ無効ト為スコトヲ得
一 保護ヲ受ケムトスル国ニ於ケル第三者ノ既得権ヲ害スヘキ性質ノ標章
二 特別顕著ノ性質ヲ具備セサル標章及商品ノ種類、品質、分量、用途、価格、出所若ハ製産ノ時期ヲ示ス為商業上使用スルコトヲ得ル記号若ハ表示又ハ保護ヲ受ケムトスル国ノ商業上ノ通用語若ハ其ノ国ノ公正且不変ナル商慣習ニ於テ常用ト為リタル記号若ハ表示ヲ以テ専ラ組成シタル標章
標章ノ特別顕著ナル性質ヲ判別スルニ当リテハ事実上ノ一切ノ事情殊ニ標章ノ使用期間ヲ斟酌スヘシ
三 道徳又ハ公ノ秩序ニ反スル標章
3 出願人ノ主タル営業所ノ所在国ハ之ヲ其ノ本国ト看做ス
4 主タル営業所カ同盟国中ノ一国ニ在ラサルトキハ出願人ノ属スル国ヲ以テ本国ト看做ス
第七条
製造標又ハ商標ヲ附スヘキ製産物ノ性質ハ如何ナル場合ニ於テモ標章出願ノ妨害ト為ルコトナシ
第七条ノ二
1 締約国ハ団体ニシテ其ノ存在カ本国法ニ違反セサルモノニ属スル標章ノ出願ヲ許容シ且保護ヲ与フヘキコトヲ約ス其ノ工業的又ハ商業的営業所ヲ有セサルモノト雖亦同シ
2 団体カ其ノ標章ノ保護ヲ受クルニ必要ナル特別条件ハ各其ノ国ノ定ムル所ニ依ル
第八条
商号ハ製造標又ハ商標ノ一部ヲ成スト否トニ拘ラス出願ヲ要スルコトナクシテ各同盟国内ニ於テ保護セラルヘシ
第九条
1 製造標若ハ商標又ハ商号ヲ不正ニ附シタル製産物ハ其ノ標章又ハ商号カ法律上ノ保護ヲ受クヘキ同盟国内ニ輸入ノ際之ヲ差押フヘシ
2 法令ニ依リ輸入ノ際差押ヲ許ササル国ニ於テハ輸入禁止ヲ以テ輸入差押ニ代フヘシ
3 不正附著ノ行ハレタル国又ハ其ノ製産物ノ輸入セラレタル国ニ於テモ亦之ヲ差押フヘシ
4 差押ハ検事局其ノ他ノ当該官庁又ハ利害関係者タル個人若ハ団体ノ請求ニ依リ各其ノ国法ニ従ヒ之ヲ執行スヘシ
5 通過ノ場合ニ於テハ当該官庁ハ差押ノ義務ナキモノトス
6 国法上輸入差押、輸入禁止及内地差押ヲ認メサル国ニ於テハ其ノ国法カ同様ノ場合ニ内国人ニ認ムル訴権及手続ヲ以テ此等ノ処置ニ代フルモノトス
第十条
1 前条ノ規定ハ製産地ノ表示トシテ虚偽ニ一定ノ地名ヲ附シタル総テノ製産物ニ之ヲ適用ス但シ此ノ表示ニ詐欺ノ意思ヲ以テ虚構又ハ僭用ノ商号ヲ附加シタルトキニ限ル
2 右製産物ノ生産、製造又ハ商業ニ従事スル生産者、製造者又ハ商人ニシテ産地トシテ詐称セラレタル土地又ハ該地所在ノ地方ニ住居スル者ハ総テ之ヲ利害関係者ト看做ス
第十条ノ二
総テノ締約国ハ不正競争ニ対シ有効ナル保護ヲ同盟国人ニ与フヘキコトヲ約ス
第十一条
各締約国ハ其ノ一国ノ版図内ニ開設スル官設又ハ官許ノ万国博覧会ニ出品スル製産物ニ対シ各其ノ国法ニ従ヒ特許ヲ受ケ得ヘキ発明、実用新案、工業的意匠又ハ雛形及製造標又ハ商標ニ仮保護ヲ与フヘシ
第十二条
1 各締約国ハ工業所有権ニ関スル特別ノ事務所ヲ開設シ又発明特許、実用新案、工業的意匠又ハ雛形及製造標又ハ商標ヲ公衆ニ知ラシムル為中央陳列所ヲ設置スルコトヲ約ス
2 前項ノ事務所ハ成ルヘク定期刊行ノ公報ヲ発行スヘシ
第十三条
1 万国工業所有権保護同盟事務局ナル名称ヲ以テ「ベルヌ」ニ設立セラレタル万国事務局ハ瑞西聯邦政府ノ下ニ置カレ該政府ハ其ノ組織ヲ定メ且其ノ事務ヲ監督ス
2 万国事務局ハ工業所有権ノ保護ニ関スル一切ノ報告ヲ蒐集シテ一般ノ統計ヲ調製シ之ヲ各国官庁ニ配布スヘシ該局ハ同盟ニ関スル一般有益ノ事項ヲ講究シ又諸国ノ官庁ヨリ受領シタル書類ヲ参照シ同盟ノ目的ニ関スル諸問題ヲ仏蘭西語ニテ記載シタル定期刊行物ヲ編纂スヘシ
3 右刊行物及万国事務局ニ於テ発行スル他ノ一切ノ書類ハ下ニ記載スル経費分担額ニ比例スル部数ヲ同盟国ノ官庁ニ配布スヘシ但シ右ノ部数以外ニ定期刊行物其ノ他ノ書類ヲ請求スル場合ニ於テハ前記官庁タルト団体又ハ個人タルトヲ問ハス別ニ代価ヲ支払フヘキモノトス
4 万国事務局ハ常ニ工業所有権ニ関スル国際事務問題ニ付同盟国ノ為必要アル特殊報告ヲ供スルコトヲ怠ラサルヘク又其ノ所管事務ニ付毎年報告書ヲ作リ之ヲ総テノ同盟国ニ報告スヘシ
5 万国事務局ノ公用語ハ仏蘭西語トス
6 万国事務局ノ経費ハ締約国ノ共同負担トシ如何ナル場合ニ於テモ毎年総額六万法ヲ超過スルコトヲ得ス
7 経費総額ニ対シ各国ノ醵出割合ヲ定ムル為締約国及将来同盟ニ加入スヘキ国ヲ六等ニ区分シ各等ノ醵出スヘキ部数ノ比例ヲ定ムルコト左ノ如シ
第一等 二十五部
第二等 二十部
第三等 十五部
第四等 十部
第五等 五部
第六等 三部
8 右ノ系数ニ各等ノ国数ヲ乗シテ得タル積ノ和ヲ部ノ総数トシ之ヲ以テ経費総額ヲ除シタルモノヲ一部ニ対スル経費分担額トス
9 各締約国ハ加入ノ際自国ノ加ハラムトスル等級ヲ指定スヘシ
10 瑞西聯邦政府ハ万国事務局ノ支出ヲ監督シ必要ナル立替ヲ為シ且毎年出納ヲ計算シテ之ヲ他ノ総テノ締約国ノ官庁ニ報告スヘシ
第十四条
1 本条約ハ同盟制度ヲ完全ナラシムヘキ改良ヲ加ヘムカ為時々改正ヲ施スヘシ
2 右ノ目的ヲ達スル為締約国ノ委員ハ逐次其ノ一国ニ於テ会議ヲ開クヘシ
3 会議ヲ開クヘキ国ノ官庁ハ万国事務局ノ協力ニ依リ該会議ノ準備ヲ為スヘシ
4 万国事務局長ハ会議ニ列席シテ討議ニ加ハルコトヲ得ルモ表決権ヲ有セス
第十五条
締約国ハ本条約ノ規定ニ牴触セサル限リ各国間互ニ工業所有権ノ保護ニ関スル特殊ノ取極ヲ為スノ権利ヲ留保スルモノトス
第十六条
1 本条約ニ加入セサル国ハ其ノ請求ニ依リ之ニ加入スルコトヲ得
2 右ノ加入ハ外交上ノ手続ニ依リ瑞西聯邦政府ニ之ヲ通告シ該政府ハ更ニ之ヲ他ノ締約国ニ通告スヘシ
3 新ニ加入スル国ハ当然本条約ノ全部ニ賛同シタルモノトシ本条約ニ規定スル一切ノ利益ヲ享受スヘシ該加入ハ瑞西聯邦政府カ他ノ締約国ニ対シテ為シタル通告ノ発送ヨリ一月ヲ経タル後其ノ効力ヲ生ス但シ加入国ニ於テ其ノ以後ノ日付ヲ指定シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第十六条ノ二
1 締約国ハ其ノ殖民地、領土、属地、保護領又ハ其ノ中ノ一部ノ為何時ニテモ本条約ニ加入スルノ権利ヲ有ス
2 締約国ハ之カ為其ノ総テノ殖民地、領土、属地及保護領ヲ概括的宣言ヲ以テ加入セシメ又ハ加入セシムル部分ヲ明示的ニ指定シ若ハ加入セシメサル部分ノミヲ指定スルコトヲ得
3 右ノ宣言ハ書面ヲ以テ之ヲ瑞西聯邦政府ニ通告シ該政府ハ之ヲ他ノ総テノ同盟国ニ通告ス
4 締約国ハ前同様ノ条件ヲ以テ其ノ殖民地、領土、属地、保護領又ハ其ノ中ノ一部ノ為本条約ヲ廃棄スルコトヲ得
第十七条
本条約ノ相互的約束ノ履行ニ付必要アルトキハ締約国ハ各其ノ憲法所定ノ条規ニ従ヒ成ルヘク速ニ相当ノ手続ヲ為スヘシ
第十七条ノ二
1 本条約ハ廃棄ヲ為シタル日ヨリ一年ノ期間満了ニ至ル迄無期限ニ其ノ効力ヲ有ス
2 右廃棄ハ瑞西聯邦政府ニ之ヲ通知スヘシ廃棄ハ之ヲ為シタル国ニ対シテノミ其ノ効力ヲ生シ其ノ他ノ締約国間ニ於テハ本条約ハ仍其ノ効力ヲ有ス
第十八条
1 本条約ハ批准ヲ要ス其ノ批准書ハ遅クトモ千九百十三年四月一日迄ニ華盛頓ニ之ヲ寄託スヘク本条約ハ右期限後一月ヲ経テ批准ヲ為シタル国ノ間ニ実施セラルヘシ
2 本条約及最終議定書ハ之ヲ批准シタル国ノ間ニ於テハ千八百八十三年三月二十日ノ巴里条約同附属最終議定書、万国事務局ノ経費分担ニ関スル千八百九十一年四月十五日ノ馬徳里議定書及千九百年十二月十四日ノ菲律悉追加条約ニ代ハルモノトス但シ本条約ノ批准ヲ為ササル国ノ間ニ於テハ前記諸条約ハ仍其ノ効力ヲ有ス
第十九条
本条約ハ一通ノ正本ニ署名シテ之ヲ合衆国記録局ニ寄託シ合衆国政府ハ其ノ認証謄本一通ヲ各同盟国政府ニ交付ス
右証拠トシテ各全権委員本条約ニ署名ス
〔全権委員署名省略〕
最終議定書
本日締結シタル本条約ニ署名スルニ当リ下ニ署名シタル全権委員ハ左ノ事項ヲ協定セリ
第一条ニ付
「工業所有権」ナル語ハ其ノ最広キ意味ニ解スヘク農産業（葡萄酒、穀物、果実、畜類其ノ他）及採取産業（鉱物、鉱泉其ノ他）ノ範囲ニ属スル一切ノ生産物ニモ及フモノトス
第二条ニ付
甲 発明特許ナル名称ノ中ニハ製造方法ニ関スルト生産物ニ関スルトヲ問ハス締約国ノ国法ニ依リ許与セラレタル諸種ノ工業的特許即チ輸入特許、改良特許等ヲ包含ス
乙 同盟国民ニ対シ住所及営業所ヲ有スル義務ヲ免除スル第二条ノ規定ハ解釈的性質ヲ有スルモノトス従テ該規定ハ本条約ノ実施前千八百八十三年三月二十日ノ条約ニ基キ発生シタル一切ノ権利ニ適用スルモノトス
丙 第二条ノ規定ハ訴訟手続及裁判管轄並特許法、実用新案法、商標法等ニ於テ必要トスル住所ノ選定又ハ代理人ノ選任ニ関スル各締約国ノ法律ニ何等ノ影響ヲ及ホササルモノトス
第四条ニ付
実用新案ノ出願ニ基ク優先権ニ依リ一国ニ於テ工業的意匠又ハ雛形ノ出願ヲ為シタル場合ニ於テハ其ノ優先期間ハ工業的意匠及雛形ニ付第四条ニ定メタル優先期間トス
第六条ニ付
1 第六条第一項ノ規定ハ出願人ヲシテ本国ノ当該官庁ヨリ下付セラレタル合式ナル登録ノ証明書ヲ提出セシムルノ権利ヲ除外セサルモノトス
2 当該官憲ノ承認ヲ受ケサル公ノ紋章、徽章若ハ勲章ノ使用又ハ同盟国ノ監督用若ハ証明用ノ官ノ記号及刻印ノ使用ハ之ヲ以テ第六条第三号ノ意味ニ於ケル公ノ秩序ニ反スルモノト看做スコトヲ得
3 然レトモ当該官憲ノ承認ヲ受ケテ公ノ紋章、勲章又ハ徽章ノ複製ヲ包含セシメタル標章ハ公ノ秩序ニ反スルモノト看做サス
4 標章カ商標法ノ規定ニ適合セサルヲ唯一ノ理由トシテ公ノ秩序ニ反スルモノト看做スコトヲ得ス但シ其ノ規定カ公ノ秩序ニ関スル場合ハ此ノ限ニ在ラス
本議定書ハ本日締結シタル本条約ト同時ニ批准セラルヘキモノニシテ右条約ノ一部ヲ成シ且之ト同一ノ効力、価値及期間ヲ有スルモノトス
右証拠トシテ各全権委員本議定書ニ署名ス
〔全権委員署名省略〕
天佑ヲ保有シ万世一系ノ帝祚ヲ践メル日本国皇帝（御名）此ノ書ヲ見ル有衆ニ宣示ス
朕明治四十四年六月二日亜米利加合衆国華盛頓ニ於テ帝国全権委員カ関係各国全権委員ト共ニ署名シタル千九百年十二月十四日菲律悉及千九百十一年六月二日華盛頓ニ於テ改正セラレタル工業所有権保護ニ関スル千八百八十三年三月二十日ノ巴里同盟条約及附属議定書ヲ閲覧点検シ之ヲ嘉納批准ス
神武天皇即位紀元二千五百七十三年大正二年二月二十八日青山離宮ニ於テ親ラ名ヲ署シ璽ヲ鈐セシム