2000-12-11
CASでは配位化合物の立体化学の表示に関して、以下のように取り決めている。なお、CASでは一般に、1個の分子または錯体に対する立体化学の表示は、ひとまとめにして修飾句に記す。
配位数が3以下の錯体には核の立体化学表示は行わない。必要なら配位子の立体化学を、有機化合物に対する立体化学表示に関する規則によって表示する。ただし、三方錐型（配位数3の四面体型）錯体では、配位数4の四面体型錯体と同様、立体化学をR とSで表示する。
配位数が4以上の単核錯体では、立体化学の表示は以下の要素から成り立つ。(1) 対称サイト項、(2) 配置番号、(3) キラリティー記号、(4) 配位子部分。
例えば [SP-4-2-[3S-(3α,4β,21β)]]- では、SP-4 が対称サイト項、2が配置番号で、その次の [3S-(3α,4β,21β)] が配位子部分である。
キラル配位子が複数あれば、配位子部分は配位子ごとにカンマで区切って並べる。例えば、 [OC-6-21-Δ-(R),(R),(R)]-
ハプト記号が必要な配位子をもつ単核錯体は、他の単核錯体のための立体化学的規則に従わない。立体化学が明らかならばそのことを修飾句 stereoisomer によって表現する。
配位子の立体化学は、（複数の配位子が立体化学をもつとしても）配位子上のすべての立体化学が明らかなとき、表示する。配位化合物では部分的な立体化学は表示されない。
非対称置換のメタロセンは、自身がその鏡像と重なり合わないならばキラルであり、鏡像異性体を有する。最も優先性の高いキラル中心の絶対配置は、順位規則によりR またはS と決定する（他の4個の中心は固定される）。
多核錯体では、すべての核の立体化学が明らかなら、そのことを修飾句 stereoisomer によって表現する（具体的な表示はしない）。核上の立体化学が未知であっても、配位子上の立体化学がすべて明らかならば表示される。
対称サイト項は、通常、論文著者の報告に基づいて割り当てられる。しかし、報告に記載がなくても、次の場合では推定によって決められる。
4配位のPd(II), Pt(II), Rh(I), Ir(I), Au(III), Se(II), Te(II)ではSP-4（平面四角形型）、5配位のすべての金属のニトリド錯体およびTcのオキソ錯体ではニトリドおよびオキソをアキシアル位とするSP-5（四方錐型）、すべての6配位錯体（配位子の歪みで不可能な場合を除く）および6個の同一単座配位子を有するアニオン性非金属中心ではOC-6（八面体型）。
また、4配位のうち以下のものはT-4（四面体型）と推定する。(1) すべての4配位金属錯体（Mn, Fe, Ru, Os, Co, Rh, Ir, Ni, Pd, Pt, Cu, Ag, Auを除く）、(2) Fe(-II), Ru(-II), Os(-II), Co(-I), Rh(-I), Ir(-I), Ni(0), Pd(0), Pt(0), Cu(I), Ag(I), Au(I)のあらゆる4配位金属錯体、(3) Mn(II), Ni(II), Fe(II), Fe(III) の4個のハロゲン化物または擬ハロゲン化物、(4) 4個の単座配位子を有するCo(II)錯体、(5) Se(II), Te(II)を除くすべての4配位非金属錯体（表示T-4は、4個の同一配位子を有するアニオン性非金属錯体では用いない）、(6) Phosphorus(1+), Arsenic(1+), Antimony(1+), Bismuth(1+) を見出しとする化合物（見出しが Phosphonium などではないもの）。
MO2n+型の基を含む錯体のオキソ基の配置は、5から9配位のウラニル、ネプツニル、プルトニル、アメリシルはtrans、またモリブデニルとタングスチルではcisであると推定する。Reineckateアニオンではアンミン配位子はtransであると推定する。
平面型環系、α-ジオキシム、2,2':6',2''-テルピリジン、2,2',2''-ニトリロトリス[エタノール] などの配位子は、その構造により中心原子の立体化学を決定する。それゆえ、亜鉛-ポルフィリン錯体は（上記の規定にかかわらず）四面体型ではなく平面四角形型である。同一の単座配位子を有する4または6配位のアニオン性非金属錯体では、対称サイト項は表示されないが、四面体型または八面体型であると了解される。